研究内容
職場パワーハラスメントの認識性・体験尺度の新規開発
問題と目的
本邦における職場のパワーハラスメント(以下,パワハラ)対策が進まない要因の1つとして,パワハラに対する共通の認識性が得られないことが考えられます。本研究では,パワハラに該当する行為や態度,状態がどのようなものであるかの具体的な判断指針を明示することを目指して,パワハラの認識性(ある行為や状況がパワハラに該当するかどうかという個人の判断)とパワハラの体験(自分自身が受けたことがある,もしくは職場で起きているか)を測定する「職場パワーハラスメント尺度」を新たに作成し,信頼性と妥当性を検討しました。
方法
九州地域の4つの職域(一般企業・病院・市役所・地方公共団体)515名の就労者を調査対象としました。妥当性の検討のために,質問紙の同一項目において,各回答者による認識性に加えて,体験の有無や頻度についても同時に回答を求めました。項目分析を行い,内的一貫信頼性と妥当性を検討しました。併存的妥当性は,職場のいじめの体験頻度を測る尺度であるNegative Acts Questionnaire-Revised (以下,NAQ-R)日本語版との関連性を調べることで検討しました。収束的妥当性と弁別的妥当性は,パワハラの体験の有無による抑うつ(以下K6)及び職域ソーシャル・キャピタル(以下,WSC)(職場や同僚,上司に対する信頼感や協調性を評価する。)との関連性を調べることで検討しました。
結果
パワハラの認識性得点の探索的因子分析と確証的因子分析の結果,パワハラ行為12項目(α=0.977)とパワハラ状態(α=0.923)4項目およびパワハラ態度(α=0.886)2 項目で構成された3因子18項目が抽出されました。各因子の内的一貫信頼性は高値でした。また,パワハラの体験得点とNAQ-Rとの間に有意な相関(r=0.546,p<.001)が得られました。パワハラ体験あり群は体験なし群に比べ,K6が高く(F(1,343)=52.47,p<.001),WSCが低いという結果が得られました(F(1,343)=64.78,p<.001)。
考察
パワハラの認識性と体験を同時にアセスメント可能な,高い信頼性と妥当性を有する「職場パワーハラスメント尺度」が新規開発できました。パワハラ行為には,国内外の職場のいじめや嫌がらせに関する代表的な行為が概ね網羅され,パワハラ状態やパワハラ態度には,本邦のパワハラ概念や職場風土を適切に捉えた独自の項目が抽出されたと考えます。本研究の結果はパワハラの体験が抑うつの発症リスクとなり得ることや,パワハラの予防や抑制のために,互いに信頼し合える職場づくりが重要であることを示唆しました。
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開発の背景
・欧米の職場いじめ(mobbingやbulling)と日本のパワハラの概念は相違点が多いにもかかわらず、日本の定義に則したパワハラを測定した尺度がありません。
・具体的にどのような行動、態度、状態がパワハラに該当するのかの判断が各職場にゆだねられているため、パワハラに対する共通の認識性が得られていません。
・パワハラの体験を測定する欧米の尺度の日本語版はあるが(NAQ-R日本語版)、パワハラの認識性を測定する尺度がなく、実証研究は決定的に不足。
尺度の特徴
・パワハラの認識性とパワハラの体験を同時に測定できる。
・パワハラ行為、パワハラ状態、パワハラ態度の3つの下位尺度から構成される。
・日本のパワハラの概念や日本特有の職場風土を適切にとらえている。
・十分な信頼性と妥当性が確認されている。
関連する業績
仁位百雲子・津田彰・鄧科・山廣知美・入江正洋,職場パワーハラスメント尺度の認識性・体験尺度の開発と信 頼性・妥当性の検討, ストレスマネジメント研究,14巻2号,22-34,2018.https://hdl.handle.net/2324/4844362
入江正洋・小林(仁位)百雲子・津田彰,職場のパワーハラスメント―チェックリストを中心に―,精神科,36巻4号,pp302-312, 2020.
仁位百雲子・鄧科・津田彰・山廣知美・入江正洋,職場パワーハラスメントの認識性と体験の年代差、職種差,日本心理学会第81回大会,2017年9月
山廣知美・津田彰・鄧科・仁位百雲子・入江正洋,職場パワーハラスメントの認識性と体験の性差,日本心理学会第81回大会,久留米シティプラザ,2017年9月
鄧科・津田彰・仁位百雲子・山廣知美・入江正洋,職場パワーハラスメント尺度の新規開発,日本心理学会第81回大会,久留米シティプラザ,2017年9月
仁位百雲子・津田彰・鄧科・山廣知美・入江正洋,2018年度ストレスマネジメント研究奨励研究賞