研究内容

努力-報酬不均衡とワーク・エンゲイジメントの関連性における、年代別の就労観の役割

問題と目的

 努力-報酬不均衡が就労観を媒介し,ワーク・エンゲイジメント(Work Engagement;以下,WEとする)に負の影響を与えるという仮説を年代別に検討しました。

方法

 製造販売業4社の正社員を対象に,横断研究による自記式質問紙調査を行いました。欠損値を除く451名を分析対象としました。質問紙は,個人属性,ユトレヒト・WE尺度日本語版短縮版,日本語版努力-報酬不均衡モデル調査票,労働価値観尺度,組織コミットメント尺度を用いました。労働価値観と組織コミットメントの下位因子を変数とした主成分分析から得た3つの就労観(肯定型就労観,存続規範型就労観,組織中心型就労観)を解析に用いました。仮説を検討するために,共分散構造分析における年代別の多母集団同時分析および媒介分析を行いました。

結果

 その結果,配置不変が確認され(CFI=.99,AGFI=.97,CFI=1.00,RMSEA=.00,AIC=125.56),本研究の仮説を支持する結果が得られました。20代以下と30代―40代の就労者において,努力-報酬不均衡が,各々異なる就労観を媒介し,WEを抑制することを示しました。20代以下の就労者は,努力-報酬不均衡の高さが肯定型就労観を抑制し,30代以上の就労者は,努力-報酬不均衡の高さが存続規範型就労観を高めました。全就労者において,肯定型就労観がWEを高め,存続規範型就労観がWEを抑制した。決定係数の値から,これらの関連は20代以下の就労者ほど大きいことを示しました。

考察

 20代以下の就労者は努力に見合った報酬を得られないと感じることで,働く目的意識や組織への愛着や同一化に基づく帰属意識が低くなり,その結果WEを低下させることを示唆しました。20代以下の就労者は職場でストレスフルな状況に陥ると,主体的な就労意欲や仕事や所属組織に対する内発的動機づけが減少することを示唆しました。30代―40代の就労者は努力に見合った報酬を得られないと感じることで,組織を去ることの代償や理屈抜きの組織への忠誠心による帰属意識が高まり,その結果WEを低下させることを示唆しました。



関連する業績

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小林(仁位)百雲子・津田彰・原口雅浩・森松嘉孝・江嵜高史・今村一郎・石竹達也,努力-報酬不均衡とワーク・エンゲイジメントの関連性における就労観の役割,ストレスマネジメント研究,17巻2号,25-37,2021.

仁位百雲子,一般企業就労者の努力-報酬不均衡とワーク・エンゲイジメントの関連性―年代別で異なる就労観の役割に着目して―,久留米大学大学院心理学研究科修士論文,2019.

仁位百雲子・津田 彰・森松 嘉孝・江嵜 高史・今村一郎・山廣知美・石竹 達也,就労者の努力報酬不均衡と就労観がワーク・エンゲイジメントに及ぼす影響-労働価値観,組織コミットメントに着目した年代比較-,H30年度日本産業衛生学会九州地方会,2018年6月